夏への扉:ロバート・A・ハインライン
1970年。天才的技術者ダンは、自分の婚約者と、友人でもある会社経営者に裏切られ、自分の発明も会社の株券も騙し取られてしまう。意気消沈した彼は、愛猫ピートと共に一度は冷凍睡眠に入ろうとするのだが、思いなおして2人の元に抗議に乗りこむ。が、今度は力づくで30年間の冷凍睡眠にたった一人で送りこまれてしまう。
30年後の世界で、彼は自分の頭の中にしか存在しなかったはずの製品が実際に使われているのに気づき、謎解きをはじめる。過去にいったい何があったのかを知るために、そして愛する猫と愛する少女を探すため、ダンは禁断のタイムマシンに乗りこむのだった…。
時間旅行をテーマにした古典的SF小説。1950年代に書かれたようだが、主な舞台は西暦1970年と、2000年である。つまり50年も先の未来を想像して書いているということになる。
ハインラインが予測した社会や技術の進歩には、現代の世の中に近い物事もあってとても興味深い。タイプライターのキーボードを使った自動製図機や、音声を認識してタイプを打ってくれる自動秘書機等はコンピューターが出現したことで、現実のものとなっている。文化女中器(訳語がいかにも古臭い)=お手伝いロボットはちょっとだけ形が見えてきたところだろうか。家事手伝いというよりは、癒しや福祉の方向を向いているようだが。
2004年の今、そういうところに目を向けながら読むのも面白い。振るだけで火がつく煙草どころか煙草そのものが駆逐されつつあるなんて、70年代ですら想像できなかったのだから。
21世紀になっても実現が遠そうなのは、コールドスリープだろう。作品中では冷凍睡眠は保険会社の商売で、長期の睡眠中に顧客の資産を運用して、目覚めた時には大金持ちになっている予定というのが「売り」なのである。ここで「おいおい、大丈夫か?」と思うのだが、ちゃんと登場する2社のうち1社は倒産して、主人公は無一文で30年先の世界に放り出されてしまう。
主人公は仕事の面では天才的なのに、世渡りの面ではてんで頼りなく、騙されたり、暴走したりする。けれども愛するものたちのためにはめげずに頑張ってしまうような人間だ。タイムマシンだって、30年前に着くか、30年後に着くか、確率2分の1だと言われても、気にせず出発してしまうのである。読んでるこちらはあらあらと思う暇もなく、うまく行くように祈るしかない。ハッピーエンドを目指して、ハラハラドキドキしながら一気に終わりまで読んでしまう。
なにより「沢山の扉のうちのどれかは必ず夏に通じている」というピート的楽観主義が全編に貫かれているのが気持ち良く、心が温かくなるような素敵なストーリーになっている。
【7/23 訂正&追記】
※リッキーは大人になってから眠るのですね。
※1週間前のコインと現在のコインは別のものか。
30年後の自分と今の自分は別の存在か。
というのは正直難しくて未だによくわからないです。
<ハヤカワ文庫>
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コメント
じょえるさん、はじめまして。「ぽちぶくろ。」のぽちと申します。
モンゴメリの記事でトラックバックしていただき、ありがとうございました。
こちらの新しい記事が気になりましたので、こちらにコメントをさせていただきます。
『夏への扉』、タイトルと猫に惹かれて子供の頃(15年程前)に読みました。あまり覚えていないので、こちらの記事をきっかけに再読したいと思います(まだ手元に保管しています。本は手放せませんね)。
またよい本を教えてください。
これからも楽しみにしております。
投稿 ぽち | 2004/07/23 12:28
ぽちさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。本の紹介にしては、ちょっとネタバレ気味ですみません。
子供の頃読んだ本を大人になって読み返すのも、新しい発見があって楽しいですよね。私はどうしても捨てられない本を再読するために、このブログを始めたようなものなのです。だから古い本の紹介が多くなっちゃいますけど、今後ともよろしくお願いします。
投稿 じょえる | 2004/07/23 13:20
文化女中器ってこんな感じでしょうか。
ロボットのWAKAMARU http://www.sdia.or.jp/mhikobe/products/etc/robot.html
投稿 じょえる | 2004/07/23 13:28