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2004/07/15

スタンド・バイ・ミー:スティーヴン・キング

刑務所のリタ・ヘイワース」同様、これもまた映画の原作として有名な作品。映画の成功の何パーセントかはこのタイトルと主題曲に拠っていると思う。エンドロールでベン・E・キングの曲が流れるとこちらもたまらず涙がぼろぼろという仕組みになっている。その後、細かいシーンは忘れても、この曲を聞くたびに何故か泣きたくなってしまう程なのである。(このストーリーにこの曲を使おうと思いついた時、きっと監督ロブライナーは、自分のアイデアの素晴らしさに膝を打ったに違いない。)そのため、小説の日本版のタイトルも「スタンド・バイ・ミー」に変わってしまっているが、原題は「The Body」(死体)である。

現在は作家として成功している主人公ゴードン・ラチャンス(もちろん、読者はキング自身を重ね合わせる。)が、12歳の夏の出来事を回想するスタイルで描かれている。
アメリカの片田舎。(キングファンにはお馴染み、キャッスルロックである。)4人の少年が、自分達と同年代の少年の死体を探すため、2日間の徒歩旅行に出る。近道と信じてか、線路を歩いては列車に轢かれそうになったり、暗い森で野宿をしたり、沼で泳いではヒルに血を吸われて大騒ぎしたりする。それこそ、後になれば笑い話のような子供達の冒険をキング独特の臨場感溢れる文章で活写している。と、同時に子供時代の終わりのいわく言いがたい不安感も、見事に描き出されている。決して裕福ではなく、恵まれているとも言えない少年たちは12歳にして既に自らの人生の転がる先を知りつつある。そして運命に抵抗しようともがく者、ただ運命に飲み込まれる者にそれぞれが分かれる頃でもあった。

主人公ゴードンはストーリーテラーとしての才能を表わし始めてはいるが、それが自分の将来に繋がるものだとは意識していない。その可能性に気づき、進学を勧める友人クリスとの友情がまた切ない。決して取り戻すことの出来ない12歳の夏。そして失った友人達。これは本当に12歳が遠く遠く過ぎ去った大人のための物語だと思う。

話中話として彼の作家としての習作が挿入されている。ひとつは映画にも使われたパイの大食い競争の話である。これがまた、子供の思い付きが面白い作品に仕上げられていて、その出来にまた感心するのである。
彼(ゴードン=キング)は生まれついての「才能のある人間」である。次から次へとストーリーが湧いてくるので、友人達の間で既に語り部として一目置かれている。やがて、自由自在に言葉を操るその才能でベストセラー作家となった彼にして尚、「一番大事な秘密は言葉にできない。」と言うのである。実は私がこの作品でもっとも感動したのは、この一文である。誰にもある心の中の大事な宝物、それは大事だからこそ言葉にして伝えることができない。言葉にしたとたんにその輝きが失われるような気がする。。。それが大作家にとっても真実なのだということに驚いたのかも知れない。

言葉で何かを伝えるのは本当に難しい。かといって、言葉以外で伝えるにはまた別種の才能が必要なのだろう。
優れた小説を読んだり、素晴らしい音楽を聴いたりすると感動すると同時に、その才能が羨ましくて仕方のない私は、無い物ねだりばかりしている凡人なのである。

―恐怖の四季 秋冬編に収録<新潮文庫>

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コメント

オグと申します。
詳しく分析されていらっしゃるので、たいへん参考になりました。
TB&リンクさせていただきました。

投稿: オグ | 2005/07/15 04:03

オグさん、こんにちは。
TBありがとうございます。
キング原作映画をたくさん見ていらっしゃるのですね。
私は怖いシーンに弱いので(笑)、いまだ見られない作品が実はたくさんあるのです。
オグさんの解説を読んで予習してから大丈夫そうなのは見ようかと思いました。
今後ともよろしくお願いします。


投稿: じょえる | 2005/07/15 22:23

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