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2004/08/06

ザ・スタンド(Ⅰ~V):スティーヴン・キング

ストーリー
軍の研究施設で新種のインフルエンザウイルスが極秘に作り出された。強力な感染力を持つそのウイルスが、小さな偶然のために外に漏れ出してしまう。そして、わずか数週間の内に世界中に蔓延し、やがてほとんどの人間が死に絶えてしまうのだった。 生き残った人間達は、不思議な夢に導かれるまま、あるものは善なるものの下へ、またあるものは強大な悪の下へと続々と集結して行った。小さな人間の集団はそれぞれの社会を形成し、その目的に向けて機能し始める。そしてついに人類の存続を賭けた両者の戦いが起ころうとしていた…。

アメリカで最初に刊行されたのが、1978年。キング自身の作家デビュー4作目の長編ということもあり、出版社側の意向で数百ページ分が削除されての出版となったようだ。名作、傑作との噂は聞こえていたが、ようやく日本語版のハードカバーが出版されたのが、なんと2000年になってからのことである。
キングファンとしては、それ以来何度も購入しようと思ったのだが、その余りの(物理的な)重さと価格に、二の足を踏んでいた。結局、他の作品が続々と文庫化されていたので、しばらく待てば軽い本が手に入ると思い待つことに。それから約4年、今年ようやくこの作品を読むことができた。次の巻まで1ヶ月待たせるという出版方法のため、約4ヶ月かけての読了となった。

前半では、世界の滅亡(というよりはアメリカ人によるアメリカの滅亡という感じだ)が、どのように準備され、いかにあっという間に起きたかが、例によって微に入り細に入り、かつグロテスクに描かれている。状況設定や描写が真に迫り、もしかしたら本当に人類はこんな風に死に絶えるのかも知れない、そうだとしても不思議はないのでは、という気持ちにさせられる。主要人物たちそれぞれの背景や心情が丁寧に描かれ、彼らがその災厄=スーパーフルーをどのように生きぬいたかのドラマが展開される。やがて不思議な運命によって個々の人生がからみ合い、大きなうねりとなるまでの迫力ある描写が素晴らしい。たくさんの人間ドラマを最終的にある一点に持ってくるというのは、キングの得意とする筋運びなのだが、ここまでの大人数を生き生きと見事に描き切る手腕はやはりさすがと言うしかない。

それぞれが約束の地に集結したら、いったい何が起こるのかと期待して読んでいた。うまく言えないが、あえて言えばファンタジックな大爆発のようなものを期待していたのかもしれない。実際に起こったことは、極めて現実的なこと、つまり小さな社会の形成と、政治的駆け引きだった。やはり、この小説はファンタジーではないのだった。集団としての方針を決める部分や、政治的集会の部分は長いし、ストーリーもあまり動かないので正直退屈してしまった。やがて、最後の戦いに向けて善と悪の両者が動き初めて、物語も大きく展開することになる。

善悪の両者ともそうなのだが、特に善の側、すなわちマザー・アバゲイルの人々の導き方が極めてキリスト教的なので、私のような無宗教的な日本人にはもうひとつわかりにくい部分がある。聖書に対する知識や、神に対する考え方が身についていないと共感が出来づらいのかもしれない。胸のすくような結末は無く、カタルシスは訪れない。新しい生命の誕生に小さな幸福を感じはするけれども、世界を滅ぼしてしまってもなお、人間は愚かであり続けるのかという問いかけが重く残るのである。
<文春文庫>

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コメント

はじめまして。トラバありがとうございます。こちらからもトラバさせてもらいました。

>アメリカ人によるアメリカの滅亡
ほんとにそんな感じですね。今月号の「ダ・ヴィンチ」で、恩田陸がキングの本は「アメリカ人の文学」だと書いていましたが、『ザ・スタンド』ではそのあたり(アメリカ人的思考)の限界も感じたりします。

投稿: kingdow | 2004/08/26 00:12

はじめまして。
キング堂様からコメントいただけるなんて光栄です。
ありがとうございます。
勝手にリンクさせてもらってます。すみません。

*アメリカ人そのものって感じがまた面白いところでもありますよね。「まったくアメリカ人て」などとツッコミ入れながら読んだりもします。

投稿: じょえる | 2004/08/26 09:42

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