生きながら火に焼かれて:スアド
いつものように本屋さんをうろついていて、この表紙に目が止まり立ち読みを始めたら止まらなくなり、買って帰った本。その夜のうちに読了。
中東などで行われている「名誉殺人」という行為の被害者の自伝である。同様の事件は、新聞記事などで時折目にすることがあり、存在は知っていたがやはり被害者自らの経験は想像以上に悲惨で衝撃的なものだった。
彼女はシスヨルダンの小さな村で生まれた。そこで女の子として生きるということは、家畜以下、奴隷以下の生活を強制されることに他ならない。物心ついた時から働き詰めで、しかも毎日父親から容赦のない折檻を受け続ける。家から出ることは許されず、一人で歩くことも許されない。男性と目があっただけで「娼婦」と呼ばれ、家族の恥として殺されてしまうという。
彼女との結婚を父に申し込んでくれたという、向かいの家の男に恋心を抱いた彼女は、彼との密会を果たすが、レイプ同然に関係を持つことになり、やがて妊娠してしまう。
家族に妊娠を知られ、一族の恥となった彼女。そして、ある日突然やってきた姉の夫に彼女は液体をかけられ火をつけられたのだった。夢中で逃げ出したものの、瀕死の重傷を負ってしまう。
家族の不名誉を晴らすための行為なので「名誉殺人」というのだそうだ。
決して昔話ではなく、現在も状況は変わらないらしい。タイム誌では、フセイン後のイラクでは逆に名誉殺人が増加しているとの報道もされている。宗教と因習が深く関わっているため、政治も法律もなかなか彼女達を救うことができない。それだけに彼女を助け出した人権団体の女性の勇気と行動力を心から賞賛したいと思う。
DVや幼児虐待が増えるこの日本にあって、人の命や人権を顧みないという点で、決して全くの他人事とは言えないのかも知れない。いろいろなことを考えさせられる、重い重い読後感の一冊である。
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コメント
本当に衝撃的な本ですよね。
実際にこのような名誉の殺人が普通に行われているということなんて
ちっとも知らずにいました。
こんなの昔の話でしょ?と言えないところが怖いです。
TBさせてもらいますね。
投稿: みわ | 2005/11/28 15:29
みわさん、TBありがとうございます。
衝撃とともに自分の無力感も強く感じますね。
いったい自分に何ができるのだろうかと。
先日見た映画でパキスタン人の夫が、口答えをする妻に「焼き殺すぞ」と言う場面があって驚きました。彼らの考え方の中では普通のことのようです。
投稿: じょえる | 2005/11/29 09:15
TBありがとうございました。
衝撃も確かなんですけど、何もできない自分というのにも愕然としました。
知っただけで本当にいいのかしら?と思う反面
宗教や文化などが絡んだこんな複雑なことに私が口出しをしていいのだろうか・・・という気もします。
彼らにとってずっと続いてきた「普通のこと」なんですよね。
こんなに価値観の違う者どうしが仲良くすることなんて
できるのかなぁ・・・。
投稿: みわ | 2005/11/29 11:51
僕もこの本を読んで今、泣く事しか出来ませんでした。しかし、本にも出てくる団体もそうだけど、こういう話に感化されてしまうと、世界には男性差別も多い事を忘れさせてしまうのです。
このスアドさんと同じ位に惨い拷問を受けている男性も大変多い。
女性の悲劇がピックアップされればされる程、今度は男性への悲劇が軽視されるのです。
とくに今は女性の時代などと語られますが、えてしてそういう時は、今度は男性が差別されています。それを女性運動家達はまるで、仕返しとばかりに何とも思っていないのです。
投稿: ゾロ | 2007/01/14 15:35