長い長いお医者さんの話 : カレル・チャペック
かつてチェコスロバキアという国があった。と、過去形で書かなければならないのだが。
そのチェコスロバキアが生んだ文豪、カレル・チャペックが子供のために書いた本である。
作品そのものの素晴らしさももちろんなのだが、実はこれは私の「翻訳もの好き」の原点とも言える作品。
童話集とは言っても、子供の頃には難しくてよくわからなかった。中学生くらいになってやっと、この本のユーモアと優しさがわかるようになったと思う。大人になってから読む童話かもしれない。
ウメの種をのどにつまらせてしまった魔法使いの治療に集まったお医者さん達が、からかい半分で長いお話をはじめてしまうのがこの表題作。
そのお話の中で特に好きなのが、「ソリマンのお姫さま」というエピソードだ。病気がちのお姫さまを治療するために呼ばれてきたのは、名前に「ドク」がついているだけの木こりのおじいさん。青白い顔のお姫さまをみたおじいさんは、日差しをさえぎる庭の木々をどんどん切り倒しはじめる。日の光あふれる庭の切り株に座っておじいさんは、ジャックナイフでパンとチーズを切って昼食に。それを見ていたお姫さまも思わずパンをもらってかぶりつく、というお話。
このパンとチーズが子供ごころに美味しそうで美味しそうでたまらなかった。(どんなパンとも、どんなチーズ、とも書かれていないのだけど)
大人になって、ワインとチーズとパン、なんて食卓に並べたりするとふとこのお話を思い出し、きっとあの味にはかなわないのだろうな、なんて今でも思ったりするのだ。
(本題の魔法使いの治療にはちゃんとオチもつけられて、めでたしめでたし、となる。)
このほか8編の童話が収録されている。恋人達を結ぶ郵便配達人の話とか。どれも心あたたまる名作である。
挿絵はすべて、実のお兄さんが書いたものなのだとか。優しい、味のある絵がまた素敵。
この本は、これからも折に触れて読み返す本なのだろうと思っている。ほっとするからね。
<岩波少年文庫>
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