闇に浮かぶ絵 : ロバート・ゴダード
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自殺したはずの貴族の跡取り息子が11年ぶりに戻ってきた。本物ならば、彼は弟の爵位を奪うことになる。実の母親も弟も、そして関係者すべてが彼を偽者と断言する中、元の婚約者だけが彼を本物と確信する。だが、彼女は既に結婚し、子供がいた。嫉妬に狂う夫は、この準男爵家の歴史に隠されてきた秘密を探ることになるのだが、深みにはまるに連れ、少しずつ精神のバランスが崩れ始める…。
19世紀イギリス貴族の内幕物ミステリー。ゴダードはこんなのばっかり書いているようだ。(私もこんなのばっかり読んでいるのだが。)
労働しない人々がもっとも裕福で、もっとも身分が高いという貴族社会。ノブリス・オブリージュ(高貴な人々の義務)という言葉があるが、貴族が労働せず、何も生み出さない人々ならば、それぐらいの義務(奉仕・慈善・軍務などに献身する)は負って当然だろう。言い換えればそれしか彼らの存在価値はなくなっていたのだ。
そんな皮肉な気持ちになってしまうくらい、この小説で描かれる一族の内情はドロドロしている。上品な筆致で紡ぎ出されるのは、親子、兄弟、周辺人物を巻きこんだ性愛スキャンダルに他ならないのだから。
「あんたたち他にやることはないのか、そんな暇があったら働け」と現代の労働者であるところの私は思う訳である。
ゴダード得意の何層にもなった謎解きの面白さはもちろん、貴族の裏側を覗き見るような楽しみもある小説だ。
こういうのを読むイギリス人の気持ちって、「大奥」を見る日本人の気持ちに通じるところがあるのかも知れない。
<文春文庫>
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