陰陽師:夢枕 獏
陰陽師
岡野玲子の漫画がヒットし、2度も映画化されているので、今では知らない人が少ないこの「陰陽師」シリーズ、小説読みとして当然かもしれないが、私はこの原作小説の第一巻が一番好きだ。初版発行は1988年、なんと16年前である。現代の『今昔物語』『雨月物語』を書こうとした夢枕獏の静かな挑戦と闘志が感じられる傑作だと思っている。
ページを開いたとき、何だか白いところが多いな、と感じる。短い会話文、省略の多い文脈。この空白を読んでくれ、という著者の意図が明白に感じられる、静かな小説だ。この静けさ、この恐怖、そしてそこはかとないユーモア。季節の移ろいを感じ、人生の無常を感じさせる。そして何より面白いストーリー。全く独自の「陰陽師」の世界が出来あがっている。ページを開いてその世界に入っていくことの喜びが感じられる本である。
お恥ずかしい話だが私は、
恋しくば尋ねきてみよ 和泉なる信田の森の恨み葛の葉
という歌について、それは「狐が出てくる歌舞伎の場面」という程度の漠然とした知識しかなく、その狐が産んだ子供が阿部晴明だというところまでは知らなかった。それとこれがこう繋がるんだ、と衝撃を受けてしまったのである。
このように読者にある程度の知識(教養というべきか)を要求するという意味で一連の小松左京の小説とも通じるところがあるようだ。
ただ要求の度合いがこちらの方が低いようで、知らなくても十分面白い。扱っている題材が共通している作品も多いようだが、小松さんのは知らないと訳わからないものが多く、その分、難しく感じるのである。
(この題材による小松左京の小説は「女狐」という短編。
<くだんの母-ハルキ文庫>に収録>)
映画化作品も2本とも劇場で見た。原作への興味と野村萬斎 が好きという理由で。
どちらも頑張って作りました、程度の出来ではあるが、野村萬斎は素晴らしかった。1作目の真田博之も。彼らのファンにだけはお勧めします。
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