わが目の悪魔:ルース・レンデル
ルース・レンデルは1976年にこの作品でイギリス推理作家協会(CWA)賞、ゴールド・ダガー賞を受賞して、ミステリーの女王への道を歩みはじめた。以前紹介した「ロウフィールド館の惨劇」」よりも前の作品になる。私の初レンデル作品でもあり、個人的にはこちらの方が好き。
厳格な伯母に育てられたアーサーは、その伯母の死によって天涯孤独の身となる。だが彼の毎日は、変わることなく几帳面に潔癖に、判で押したように繰り返されていく。彼の心の内に秘められた異常な衝動は地下室に置いたマネキン人形の首を締めることで、かろうじて抑えつけられていたのだが。ある日彼のアパートに新しい住人がやってきたことをきっかけに彼の「平和な日常」は徐々に脅かされ始めるのだった…。
異常者の心理を描写した小説という点ではサイコ・サスペンスというべきなのだろう。だが、アーサーの不幸な生い立ちから丁寧に描かれており、彼がもともと不安定な精神状態の持ち主であることに違和感を覚えないようになっている。その彼がやっと保っていた心のバランスがふとしたきっかけで大きく崩れだす様子には、恐怖よりも、同情を覚えてしまうのである。
また、彼の妄想のきっかけとなるアントニーは「異常心理」についての論文を書いている、という人物設定も秀逸。アーサーとアントニーの2人のA・ジョンソンをめぐる偶然と誤解が、やがてアーサーの狂気に繋がっていく様は、見事としかいいようがない。レンデル初期の傑作である。
<角川文庫>
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