少年時代:ロバート・R. マキャモン
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12歳の少年コーリーは、父親と牛乳配達の途中、猛スピードで湖に突っ込んで行く車を目撃する。助けようと飛びこんだ父親は、運転席に縛りつけられた惨殺死体を目撃してしまう。一方コーリーは、木陰にたたずむ人影を見たと思うのだが、現実の出来事だったのかどうか自信が持てない。
その後の捜査でも被害者の身元はわからず、事件があったことさえ忘れられて行く。だがコーリーの父親は、その事件以来、死者の呼ぶ声が聞こえるようになり、精神のバランスが徐々に崩れていくのだった…。
謎の殺人事件から幕を開ける物語だが、謎解き→解決という方向にまっすぐ向かうのではなく、少年コーリーの1年間の物語が、殺人事件を背景として描かれていく。60年代のアメリカ南部の生活と、夢見がちな少年の成長物語が交錯し、幻想的な世界が織り上げられている。怪獣の住む川や、生きているような自転車、ひ弱だが、天才的ピッチャーである転校生や理不尽な不良少年達などが登場する膨大なエピソードが積み上げられて、やがて事件はゆっくりと真相に向かっていくのである。まだまだ根強い人種差別がある小さな町で、コーリー親子を本当の意味で救ってくれるのは、不思議な力を持った黒人の老女であるという設定も面白い。
主人公が「物語を書かずにはいられない」少年であることからか、キングのスタンド・バイ・ミーに似ていると言われるが、やはり全く違う味わいの小説である。こちらの方がより「おとぎ話」的な色合いが強いように思う。中篇と長編という長さの違いだけでなく、「スタンド・バイ・ミー」が映画向けの作品とすれば、こちらは1年続く連続ドラマシリーズのような作品。一話分だけみても面白いドラマだけど全編みると犯人がわかる、そんなドラマを見てるようだ。
ただ、単純に好き嫌いの問題として「どっちが好きか」と聞かれれば、私はキングの方が好き。
それも僅差ではなくて圧倒的な差をつけて。なぜかは自分でもうまく説明できないのだけれど。
(「好き」に理由はないのかも知れないが。)
<文春文庫>
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コメント
>僅差ではなくて圧倒的な差をつけて
大賛成です(笑)。私はこの作品が高く評価されている理由がわかりません。マキャモンはどの作品を読んでも、彼ならではの強力な個性というものが感じられず、物足りなく思ってしまいます。
投稿: kingdow | 2004/12/28 12:33
そうですよね。なんか物足りない。
ストーリーも良く出来ているけれど、奔流のような物語性というか、そういう大きなうねりのようなものが足りない。
あとやっぱり主人公が、魅力的じゃないんですよね。なんかぼんやりした印象。それが個性がないということなのかな。
投稿: じょえる | 2004/12/28 17:26
わたしは表紙の絵に惹かれて買ったのはいいのですが、少年の背中から羽がはえて飛び回るあたりから、なんだか興味が失せてしまって、ほったらかしです。
でも、読んでみるかな・・・。
他のマキャモン作品でこれはいい!っておすすめとかあるますか? 教えてください。
わたしもブログで小説書いているので、よろしければ、ヘタクソですが読んでみてください。暇なときにでも。
投稿: さくらみかん | 2006/02/11 20:59