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2005/01/27

どぶどろ: 半村 良

dobudoroどぶどろ

『およね平吉時穴道行』のエントリにコメントをいただいたtakaさんのご紹介で、どうしても読んでみたくなり購入した。実は数年前にも探したことがあったのだが、その時は見つからなかった。今回はなんと「昭和ミステリ秘宝」ということで扶桑社から復刊されていて、あっさりと新品を手に入れることができた。しかも復刊は2001年だとか。ああ、早く探せば良かった。

江戸の町の底辺を生きる人々の哀感漂う短編集、のような趣で始まる本である。
掛取りの金を使いこんでしまった若い男や、中年過ぎての放蕩の末に大店の主人から夜鷹そば屋になった男の話、衣食住はおろか女房までも奉公先の店からのあてがい扶持だと嘆く中年男の話など、切なくやるせない江戸情話が続く。
が、先を読むに連れ、前の話の登場人物がちらほらと顔を出し始める。
最後の中編「どぶどろ」に至って、前の7編の短編がこの章のための背景説明の役割を果たしていることがわかる仕掛けだ。大長編にありがちな、多くの登場人物の背景を描くために本筋の進行がもたつくようなこともなく、また本来脇役である人々を一度主役に据えることで、読者の側も主人公の視点に添って物語を追いながらも、他の視点からの風景を前もって見ていることにより、同時にどこか俯瞰的な視点をも持つことができるのである。

さて、どぶどろの主人公の「この字平吉」はまさに「およね平吉~」に出てくる平吉その人である。(もっとも前作で彼は想い人を追ってタイムトンネルに身投げしてしまうので、その意味では別人ではあるのだが。)
半村良はこの「平吉」に深い愛情を抱いていたのだと思う。誠実で不器用で、そして報われることの少ないこの「がに股」の青年をいつかもう一度主人公にしようと思っていたのだろう。だが出来あがったのは、岡っ引き平吉の胸のすくような捕り物帖でも、一途な頑張りで主人の娘との恋を成就する青年の話でもなかった。

これは、不条理で不公平な世の中の底の底、どぶのぬかるみの中に自分を見つける男の物語である。
恋するおよねこそ登場しないものの、前作同様、平吉は戯作者「山東京伝」の家に働き、下手な俳句をひねってみたりする。前作の彼の姿と2重写しのようになり、「あいかわらず俳句は下手だねえ」などと、懐かしさのあまりからかってみたくさえなるのである。
作者の抱く平吉への愛情(もしくは愛着か)を、わずかでも共有できたのかもしれない。

この気持ちがなければ「なんだか救いのない小説」と思ったかもしれないのだが、別の未来がある平吉を知っているから、平吉のいるパラレルワールドのような気持ちで読むことができた。この字平吉の物語には沢山の違った結末があるに違いない、と素直に思えたのだ。

合わせ技による傑作、というべきだろうか。


目次

いも虫
あまったれ
役たたず
くろうと
ぐず
おこもさん
おまんま
どぶどろ
<扶桑社文庫―昭和ミステリ秘宝>

※半村良の時代小説を数冊まとめて購入してしまった。しばらくはハマりたい気分。
それにしても半村先生、もう少し長生きしていただきたかったです。合掌。

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コメント

こんにちは!トラックバックいただきましてありがとうございます!
どぶどろ、ちょっと救いがないお話ですけど、平吉がそうするのも納得できるというか・・・あのまま生きながらえていたとしても、幸せになれるのかな、と考えると、ああいうラストもありかも、と思います。
半村良の時代小説、あまり読んでいませんが好きです。文庫にはなっていないのかな?

投稿: taka | 2005/01/28 12:23

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どぶどろ(扶桑社文庫) 本所で発生した夜鷹蕎麦殺し。山東京伝の従者、平吉はその謎を追ううち、山東京伝や銀座衆の謎が見えはじめていった。 ----  宮部みゆき「... [続きを読む]

受信: 2005/01/27 20:51

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