心地よい眺め:ルース レンデル
心地よい眺め
偶然拾ったダイヤの指輪で婚約した2人は、5年後、世話をしてくれる母が死んだために結婚する。結婚指輪はその母が残したものだ。単なる成り行きとして子供が生まれるが、その子は誰からも愛情をかけられることはなかった。衣食住に不自由はなかったが、愛情だけは与えられなかったのだ。成長した彼が愛するものは「美しいもの」だけだった。
一方、幼い頃に母の殺害現場をみてしまった少女フランシーンは、継母の異常なまでの過保護でがんじがらめになっていた。19才になっても、ひとりで行動することはもちろん、自分でなにかを決めることさえも許されていなかった。
この2人がある日出会って、恋に落ちて…という物語なのだが、これが最後まですごい緊迫感を保ち続けるのだ。
どんな形であれ、最後には破滅に至るのだろう、というのがわかるようにはなっているのだが、それでもストーリーを追うのを止めることができない。
常に手を変え品を変えた新しい「不安」が付き纏ってくるからだろうか。
それは部屋を占領する家具であったり、叔父であったり、トランクの中の死体であったり、隣人であったり、また狂気じみた継母であったりするのだけれど。この「苦境」をどうやって切りぬけるのか、のドキドキ感が絶え間なく続くのである。
また印象深いのが、テディの両親や叔父の人物設定だ。なんというか、あきれるくらいに極端だ。しかも、イギリスには本当にこんな人達がいるんだろうか、と思えるくらいの説得力がある。
行くところまで行ってしまった階級社会の底辺ということなのだろうか。妊娠しても医者にもかからず、栄養の知識も喫煙の害の知識もない。
「破水しても煙草を吸い続ける妻と、その横でテレビを見続ける夫」という描写には、そんなことありえない、と思いつつも、奇妙なリアリティがある。殺伐としたニュースばかり続く昨今、日本でもこんな人達が現実に出てくるのかもしれないという気もして、なんだか妙に怖いのである。
ラストもまた美しく、お見事としかいいようがない。「ゴシック・ホラー的なハッピーエンド」なのかも知れない。
<ハヤカワ・ポケット・ミステリ> 茅 律子 (翻訳)
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