運命の息子:ジェフリー・アーチャー
小説好きにとって、好きな作家のつまらない作品を読んでしまった時くらい、落ち込むときはないのである。
読んだことはないけれど噂だけは聞いていて「一度は読んでみようかな」と思って読んだ本や、本屋めぐりでたまたま手にとった本、そんな本がつまらなくてもそんなに落ち込んだりはしないのである。
面白ければめっけもん、てな程度なのである。
しかしですね、以前に傑作を物している大作家、それも大好きな著者の作品と期待して買って、それがつまらないとなったら、かなりのショックを受ける。甚だしい場合はある種厭世的な気分にさえもなってしまうのである。
この本は、今まで書いた自分の作品の使い慣れたネタだけを使いまわして書いたような作品なのである。(刑務所内で書いたらしいから、ネタが仕込めなかったのかもしれないが。)
2人の主人公の数奇な運命を描くのも、『ケインとアベル』の焼き直しだが、出生時に取り替えられてしまった双子という設定なのでまあOKとするとしても、その後の二人の人生を描く道具立てがことごとく、以前の作品で使われたものばかり。才能に恵まれた主人公たちと性格の悪いライバル、戦争での活躍、株式による会社の奪い合い、学校内の選挙から上院議員選挙、それから州知事選挙。ああ、それから裁判。
そんな数々の手持ち駒を、熟練の職人技でさっさか練り上げて、はい出来上がり、風な作品というのは言いすぎでしょうかね。
もちろん熟練ワザですから、ストーリーそのものは最後に盛り上げていって、二人が出会い、信頼関係を築き、遂には兄弟の対面にいたるというドラマティックなものです。ネタの使いまわしが気にならなければ、それなりに面白い作品だとは思うのですが。邦訳された作品を殆ど読んでいる私にとっては、「おいおいまたかい」てな感じで、そればかり気になって楽しめなかったのだ。
それから私はたいていの翻訳小説はあまり気にならないで読んでしまう方なのだが、今回の翻訳はちょっとひっかかりが多かった。誤訳ということではなくて、なんかこなれてないというか。
例を挙げれば、日本人はあまり「週単位」で物を考えない気がするのだが、英米の小説にはものすごくたくさん「weeks」が出てくるので、それをそのまま「数週間」と訳されると、なんかザラっとした感じか残る気がする。
「ジミーったら、私はあと数週間で18歳になるのよ。」
(下巻162ページ)
「私の兄を一週間以上も虜にした女性に早く会いたいわ。」(同)
うーん。棒読みの台詞のようで気になります。永井淳さんもあまりノッて仕事ができなかったのかもしれない。
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コメント
こんにちはタリスマンでお邪魔した慧です
この作品慧も読みましたけど
同感です もう~ナニッツ!って・・
とても稚拙に感じてがっかりでした
良いお年をお迎えください
来年もよろしくです
投稿: 慧の本箱 | 2005/12/30 22:47
こんにちは。
そうですね。なんだかがっかりでしたね。
心を入れ替えて(笑)、また面白い作品を書いてくれることを期待します。
こちらこそ、来年もよろしくお願いいたします!!
投稿: じょえる | 2005/12/30 22:52