ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを:カート・ヴォネガット・ジュニア
大富豪の跡取り息子エリオット・ローズウォーターは、戦争中に負った心の傷をきっかけに恵まれない人々に愛とお金を与えようとする。それも限りなくたくさんの愛とお金である。要するに彼の持つ全てを与えようとするのだ。
その行為により彼は父親の信頼を失い、妻は精神に異常をきたす。ついには、彼の博愛的行為が精神異常の証拠であるとして、莫大な財産の相続権を奪おうとする輩が現れるのだった。
ヴォネガットの描く究極の愛と優しさの物語。鋭い皮肉は優しさの影に隠されてはいるが、鋭さは変わらず。とことん人を愛することは、やはり狂気と言われても仕方が無いのだろうか。
「僕は芸術家になろうと思う。」 「芸術家?」 「僕はこの見捨てられたアメリカ人たちを愛して行きたい。 たとえ彼らが役立たずでなんの魅力もなくてもね。 それが僕の芸術ってわけさ。」
優しく愛すべきエリオットの運命を思うと可哀想になってしまうが、それでも最後は、「やったね、エリオット」と拍手を送りたくなる。
切なくて、哀しくて、そして爽やかな小説だ。
このエリオット・ローズウォーターは「スローターハウス5」にSF本の収集家(そしてちょっとオカしくて、すごく優しい)として登場してくる。そのSF作家も登場するし、財閥の名前に「ラムフォード」(タイタンの妖女)も登場する。いろんな作品に登場人物がクロスオーバーしているようだ。こういう仕掛けが、ヴォネガットマニアを作り出す一因でもあるのだろう。
サイドストーリーが構築しやすい作品は熱狂的なマニアを呼ぶのである。
スターウォーズしかり、マトリックスしかり。
そしてヴォネガットの小説のように、作品の間に共通の人物や場所が出てくるもの。
スティーヴン・キングなんかもこのクチだろう。人物相関図とか、街の年代記とか、つい作りたくなるのもなんだかわかる気がするのである。(私自身は未だやったことはないが。)
<ハヤカワ文庫>
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