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2008/08/08

ハリー・ポッターと死の秘宝 : J.K.ローリング

●以下、内容に触れています。内容を知りたくない方はご遠慮下さい。


日本語版も遂に完結しましたね。
いろいろな伏線、複雑な人間関係が見事に収束されて行く圧倒的なストーリー展開は、やはり素晴らしいの一言です。
翻訳者の方のご苦労も並大抵ではなかったことでしょう。本当にお疲れ様でした。
この本を日本の読者に届けていただたいてありがとうございました、と、まずはお礼を申し上げたいと思います。


でもでも、それでも、やっぱりこの翻訳は何かしっくりこないのですよね。
松岡さんの頭にあるイメージをキャラクターが着ぐるみみたいにかぶせられているような、そんな感じがして仕方がありませんでした。
どうしても気になるのが一人称です。それも重要な人物のそれ。

闇の帝王ヴォルデモートは「俺様」と称し、彼が話すときは字体が震えています。
ダンブルドアは「わし」です。語尾には「じゃ」がついています。

例:「わしの杖で君を殺し損ねたのじゃ」 
  :「そうじゃのう」

この訳によって、彼らの大事な個性が逆に失われてしまったような気がします。彼らのクールさ、冷酷さ、芯の強さが大時代的な言葉使いによって消されてしまったのです。時々、ただの悪者キャラ、ただのおじいさんキャラのように感じられるのが、哀しいです。

そしてスネイプです。彼は自分のことを「我輩」と言うのですね。ハリーの物語は近過去というのでしょうか、ほとんど現代を背景にしています。この時代に自分のことを「我輩」という教師をイメージするのはかなり難しいことだと思います。
この一人称を使っていたことで、最終巻で松岡さんは相当困られたのではないでしょうか。
だってこの巻で、というかこの物語全体で最も重要と言っても過言ではないくらいのセリフがスネイプが発せられるのです。
そのセリフは

     Look.......at.......me......

です。これを「我輩を見ろ」と訳すわけにはいかないのは明らかです。

結局、日本語版ではこの部分は「僕」になっていました。若いころの回想場面では「僕」と言わせることで整合性を取ったのでしょう。
でもそのおかげで、逆に「僕をみてくれ」の意味が英語よりも明確になったとも言えるのですが。


もうひとつ気になったことはハリーの母リリーと伯母のペチュニアの姉妹関係がうやむやにされたことです。
日本語版の一巻ではペチュニアが姉、リリーが妹でした。その後、確か3巻だったと思いますが「翻訳者が作者に問い合わせて回答をもらったので姉と妹を入れ替えた」とふくろう通信(本についてくる小冊子)に書かれていました。この時点で作者がどちらでもいいと思っていたのか、あるいは後で変更したのかはわかりませんが、最終巻の英語版では確かにペチュニアがElder、リリーがYounger と書かれています。

もういちど姉妹を入れ替える混乱を避けたためか、日本語版ではこの部分が訳されていません。ということは、日本語版だけを読んだ読者にとってはリリーが姉のままだということです。
ストーリーに大して影響はないのかと思いますが、これをごまかすのはどうかな、と思うのです。せめて「訳しませんでした」という説明は必要だったのではないでしょうか。


とはいえ、スネイプという人物の真実が明らかになる場面は涙を誘います。彼こそがこの物語の影の主人公であり、ハリーポッターの物語は実は青年スネイプの愛と贖罪の物語でもあったという2重構造に、驚かされるのです。

その白眉は回想シーンでのこの会話です。ダンブルドアとのやりとりが悲しくて美しいのです。

"After all this time? "

"Always," said Snape.

   「こんなに年月が経ってるのに?」  
   「永遠に。」


常にそして永遠に、彼女を愛し続けるとスネイプは宣言したのです。
もう読者滂沱の場面ですよ。
本物のロマンティストです、この人は。やっぱりスネイプ先生は「我輩」なんて言っちゃいけないと思います。

最終巻の読了後に1巻から通して再読してみました。気づいてなかったような細かい伏線を見つけたり、あとで登場する人物の名前がさらりと書かれていたりと、新たな発見がありました。
そしてダンブルドアの話術の巧みなこと。狡猾といってもいいくらい。真実を話しながら、核心を隠す彼の技術に改めて感心したり。

こうしてハリーの世界のさらなる深みにこれからもはまっていくのかもしれません。

語りたいことは尽きないですが、愛と死と再生の物語として、青春小説として、大人にも読んでもらいたいと思っております。できれば英語版を。





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Paul Simon
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